2020 / 04 / 26

記憶の標本
episode no.002

 

高校生の頃コンビニのアイス売り場の棚に置いてあった

臓器提供意思表示カードをなんとなく持ち帰り、

それからずっとそれを持ち歩いていた。

(たぶん、当時の私は親の知らないところで、自分だけの権利を得た気がして大人になった気分だったのだ。)

「心臓・肺・肝臓・腎臓・脾臓・小腸・眼球」

なぜかこの「眼球」だけは丸ができなかった。

 

大人になり、運転免許証を手にしてからも、

意思表示の欄にはどうしても「眼球」には丸をできないままでいる。

 

たぶん、理由はいくつかあって、

眼球を失ってしまっては、

生きている間に見た色々までも失ってしまうような気がするのと、

昔から心のどこかで死後の世界が万が一あったとしたら

この目で見たいと思っているからだと思う。

万が一の話である。